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田村 正徳さんの病院ボランティアインタビュー写真

日進月歩で進歩する医療技術のおかげで今日まで多くの新生児の命が救われてきました。しかしその反面、つなぎとめられた命はNICUの慢性定期な満床状態など新たな課題を医療現場に突きつけています。
今回は新生児の分野で長年活躍されている埼玉医科大学総合医療センター小児総合医療センター長の田村先生に、小児在宅医療の抱える課題や対策・埼玉での小児在宅医療の取り組みについてお話しを伺いました。

小児在宅医療の歴史

田村先生が「小児在宅医療」に関わることになった経緯について教えて下さい。

医療の進歩により乳児死亡率は劇的に低下してきました。1950年代には1000人の出生に対する乳児の死亡数は約120例でしたが、2014年には2.1例までに減少しています。一方で、ハイリスク妊娠・分娩/ハイリスク新生児は増加の一途を辿り、NICUの長期入院が問題視されはじめました。

厚労省もNICUの長期入院の改善を提唱し研究班を発足した直後の2008年、東京都の墨東病院で「搬送受け入れ不可事例」が起こってしまいます。この事例は、都内で急変した妊婦さんの搬送先が決まらず、赤ちゃんは無事に生まれましたが妊婦さんが不幸にも亡くなるという事件でした。この事件の背景を解明するために2010年に厚生労働省が総合周産期センターに調査を行ったところ、「母体搬送受け入れができなかった事例がある」と回答したセンターは、有効回答79施設のうち62施設(全総合周産期センターの実に約78%以上)あることがわかりました。その理由(複数回答)として「NICU満床」を挙げた施設は85.5%に上りました。つまり、「NICU病床の不足」が「日本の周産期医療の危機的状況の主因」であることが分かったのです。この問題に対して取った対策は2つ、「NICUから小児病棟への移行」と「NICUから小児在宅医療への移行」でした。

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墨東病院の事例を受け、NICU満床を解消するために新生児病棟に入院していた患者の転出先はどこに移行したのでしょうか。

NICUからの転出先として、「自宅:46%」「院内で転棟:33%」「他の病院へ転院:19%」であることがわかりました。(2010~2012年に「重症新生児に対する療養・療育環境の拡充に関する総合研究班」が行った調査より)

つまり約半数の新生児がNICUから小児在宅医療へ直接退院していることになります。また同時期に行った広義呼吸管理児の「最終転出先」は、66%(約3分の2)が自宅という結果になっていることが分かりました。

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小児在宅医療が抱える課題

NICUから小児在宅医療に直接退院している小児はどのような疾患を持っているのでしょうか。

NICUの長期入院児の基礎疾患は、先天異常が29%・超低出生体重児が27%・染色体異常が15%・新生児仮死が14%と続きます。病態の特殊性として「呼吸器障害や循環障害」が挙げられます。特に、未熟な肺機能のまま生まれてきた新生児は慢性肺障害を合併し長期人工呼吸や酸素投与が必要になるケースが多く見られるのが現状です。

NICUから自宅へ直接退院となることによって、病児の家族にはどのような負担がかかっているのでしょうか。

その回答には、まず小児在宅医療が抱える状況について言及しなければなりません。
小児在宅医療は「対象者が少なく広域に分布している」「NICUやPICU(小児ICU)の出身者が多く、医療依存・重症度が高い」という特徴があるため、重症小児に慣れていない在宅医・訪問看護師・介護士・訪問リハビリのいずれの職種も敬遠するという現状があります。つまり、大人の在宅医療と比較して受けられる医療・介護サービスが絶対的に不足していることは否めません。

また、成長段階にある小児在宅医療は「発達・療育・教育」の観点が必要になり、医療・介護だけでなく特別支援教育や行政との関わりも重要です。しかし現状は、保健・医療・福祉サービスや情報を家族に届けられる小児医療に精通するケアマネージャーの存在がないという課題があります。

つまり、医療・福祉・教育に関わるすべての情報収集や対応を病児の家族(特に母親)が一手に担っており、人工呼吸管理が必要な児の場合は母親の1日の平均睡眠時間は4〜5時間、しかもその睡眠の途中にも痰の吸引などのために起きなければならない状況が慢性化しているのが現状です。

患者家族の負担軽減を進めるにあたり、病院や診療所が解決しなければならない課題はどのようなものがあるのでしょうか。

小児在宅医療の症例が少ないのに広範囲に分散していることから「専門の医療スタッフが育ちにくい」という点がまず挙げられるでしょう。この課題が浮き彫りになった調査結果があります。

これは全国の在宅療養診療所を対象にした前田浩利先生の調査ですが、この結果「今までに10人以上診療したことがある」と答えたのは全体のわずか2.2%に留まり、「今までに診療したことがない」と回答したのは全体の74.4%(全体の4分の3近く)まで上ることがわかりました。これは、小児在宅医療の症例が少なく、かつ分散していることから専門の医療スタッフが育ちにくい現状を浮き彫りにさせた調査だと言えます。

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また、同対象者に「小児科領域の患者を診療するにあたりこれならば診療できると思うものを複数お答えください」というアンケートを行うと、「紹介元の病院がいつでも受け入れてくれる保証があれば診療してもよい」と回答したのが39.0%、「小児科胃とのグループ診療なら診療してもよい」と回答したのが27.9%という結果になりました。

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このデータから、在宅医療を支援する中核病院が少ないこと、具体的には「在宅医療への移行支援・緊急時の救急受診・緊急入院」に対応する地域中核病院小児科が少ないことも課題として挙げられます。

小児在宅医療に対する国・行政の対策

小児在宅が家族に与える負担の大きさを踏まえて、国や行政はどのような対応を行っているのでしょうか。

国も動き始めています。平成25年に大なわれた社会保障審議会医療部会では、医療と介護の連携推進において「高齢者だけではなくNICU(新生児集中治療室)での長期の療養を要した小児などについても、在宅において必要な医療・福祉サービス等をうけることができ、地域で安心して療養できるよう、福祉や教育などとも連携し、地域で在宅療養を支える体制を構築することが必要である」と明記しました。

その結果、平成25・26年度に「小児等在宅医療連携拠点事業」に予算をつけて全国から選定された延べ10都県が「小児等在宅医療を担う医療機関の拡充や地域における医療・福祉・教育の連携体系の構築」「医療と連携した福祉サービスを提供できるコーディネータ機能の確立」を推進しました。各県の取り組みとして、下記のような施策が実施されました。

群馬県:子供病院での相談窓口設置 埼玉県:医師会との連携、診療所・訪問看護の拡充 千葉県:同行訪問研修、相談支援専門員研修の実施 東京都:他職種連携研修、市町村に対する調査 神奈川県:モデル市と直接の連携 長野県:ICT構築(しろくまネット) 三重県:県庁内で多部署によるワーキンググループの設置 岡山県:社会福祉法人による重症児の地域生活支援 福岡県:大学病院と医療型入所施設のコラボ 長崎県:全県のICTネットワークを活用

また、平成27年には医療提供体制推進事業費補助金として134億円が計上され、NICU等に長期入院している小児が在宅に行こうするためのトレーニングを行う地域療育支援施設を設置する病院に対して財政支援を実施し、在宅に戻った小児を一時的に受け入れる病院に対する財政支援を打ち立てました。

「小児等在宅医療連携拠点事業」に選ばれた他県の事例から、埼玉県が取り入れられたことはありますか。

「小児等在宅医療連携拠点事業」に選定された延べ10都県はお互いに見学しあい、どの県の取り組みも参考になりました。その中でも三重県が行っていた「行政の担当部署が横断的にワーキンググループの立ち上げ」にはとても刺激を受けました。

先にお伝えしたとおり、小児在宅医療では医療だけでなく、「療養・福祉の視点からのサポート作り」が必要になります。これを実現するためには、行政の単一部署が小児医療を担当する縦割り行政ではなく、複数の関係部署が横断的に意見を出し合うことが包括的なサポート作りに必要です。
三重県の取り組みを受け、平成27年度には埼玉県でも県庁内にある7つの部署(小児在宅医療に関する保健医療部、障害者支援課、特別支援教育課、健康長寿課など)で構成された小児在宅医療ワーキンググループを発足させ、包括的サポート体制の構築に励んでいます。

平成28年6月には「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律」が成立しました。これは小児在宅医療を受けている家族や、それを支える行政にとってどのような影響があるのでしょうか。

第56条の6 ②に新設された法律には、次のような記載があります。
「地方公共団体は、・・・(省略)日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児が・・・(省略)保健、医療、福祉その他の核関連分野の支援を行う機関との連絡調整を行うための体制の整備に関し、必要な措置を講ずるように努めなければならない。」

この「努めなければならない」という語意には、「しなければならない」という意味が含まれています。そのため、例えば現在お住まいの行政機関で小児在宅医療に関する情報やサポートが受けられていないご家族は、この法律によって行政にサポート構築を訴えることが出来るようになりました。逆に言えば、地方自治体はこの法律によって小児在宅医療におけるサポート体制を整えていく義務が生じたことになります。

NICU入院児が在宅移行することは、医療経済的な観点からもメリットがあるのでしょうか。

その回答には、複雑な心臓病を持った染色体異常の1610gで出生した赤ちゃんの事例をもとに説明したいと思います。この赤ちゃんは、NICUに1ヶ月入院した後に、両親の希望で退院し、在宅医療を5ヶ月間実施しました。この間にかかった医療費は合計117万円でした。もしこの5ヶ月間をNICUで過ごしていれば、1ヶ月でこの金額の2倍以上かかっていたことがわかりました。

なぜ小児在宅医療がNICUにくらべて安くすむかというと、母親が医師や看護師・ソーシャルワーカーの役割を一手に担っているからです。その負担は相当なものであることは言うまでもありません。

そこで厚労省に提案したいのは、「週に1〜2日くらいは訪問看護師が24時間体制で小児在宅医療を母親の代わりに行う仕組み」です。ドイツでは、平日であれば24時間の訪問看護師サービスを受けられる仕組みがあり、小児在宅を行っている母親でも平日は仕事に出ることができます。

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埼玉の小児在宅医療の取り組み

埼玉県が「小児在宅医療」のために行った取り組みについて教えて下さい。

まずは埼玉県の在宅医療を必要とする小児(18歳以下)の実数を二次医療圏別に調査しました。すると、広義の呼吸管理児の218名(人工呼吸を必要とする小児が103名、気管切開が100名、NPPVが15名)を含む計702名が在宅医療を受けており、年齢別でみると6歳未満:319名、6〜18歳以下:383名であることがわかりました。

在宅医療を必要とする小児(18歳以下)の実数を把握できたことで、「どのエリアでどのような小児在宅医療サポートを提供する必要があるか」を面で捉えることができ、埼玉の小児在宅医療の対策内容と優先順位を明確に立てられるようになりました。

小児在宅医療のニーズが数値として見える化できたことで、埼玉県で行った具体的な取り組みについて教えて下さい。

まずハード面での対応として2000年に埼玉医科大学総合医療センターに総合周産期センターを開設(2013年には増設)しました。現在はNICU51床、GCU30床と世界でも5本の指に入る規模で稼働しています。また、小児在宅医療で疲弊している家族の救済として医療型入所障害児施設(カルガモの家:44床)を2013年に開設しました。
それまで埼玉では、3歳未満、BW<10kgの障害児入所サービスがなく、小児科病院・二次救急病院への入院継続が主な対応方法だったのですが、現在はカルガモの家がその受け皿として機能しています。

またソフト面での対応として「顔の見える関係の構築を目指した勉強会」を実施しています。この勉強会を通して、小児在宅医療を支える多職種連携づくりができればと考えています。具体的には、日本小児在宅医療支援研究会(年1回:2011年〜)、埼玉小児在宅医療支援研究会(3ヶ月毎:2011年〜)を開催し、回数を重ねるごとに多職種が集うようになりました。結果的に、多角的に小児在宅医療について議論・体制づくりができるようになっています。

追い風になったのは「医師会との連携」です。医師会の協力が得られることで、小児在宅医療に関する現状把握アンケート回収率は飛躍的に増加し、各講習会の参加者が激増、また医師会による講習機材の購入支援など、様々なフォローを受けることができました。

また、「小児在宅関連の医療・福祉資源調査」の一環として、埼玉県内の小児在宅患者受け入れ医療・福祉資源マップ(平成24年)を日本在宅支援研究会と埼玉医科大学総合医療センターホームページにて閲覧ができるように整備しました。ここでは、(1)小児科有床病院、在宅療養支援診療所、小児開業クリニック、訪問看護ステーション、訪問介護事務所、重症心身障害児施設の受け入れ可能内容(2)さらにエクセルファイルで該当患者を受け入れてもらえる条件の確認ができます。

このような施策の結果、平成24年から26年の2年間で、小児在宅患者の受け入れ可能施設数が急速に伸びてきました。小児科有床病院が9施設から41施設に増加/在宅療養施設診療所・小児科クリニックが17施設から72施設+要相談30施設/訪問看護事業所が39施設から91施設に増加/重症心身障害児施設が2施設から6施設に増加となりました。

小児在宅医療を行っている母親・家族が受けられるサービスが埼玉では広がっていますが、これらのサービスを母親や家族が知る方法はどのようなものがあるのでしょうか。

「小児在宅患者受け入れ医療・福祉資源マップ」に協力してくださった保健所や小児の在宅医療も受け容れてくれる医療・福祉機関では、間接的にご家族にもお伝えされていると考えています。
また、日本小児在宅医療支援研究会のホームページ(www.happy-at-home.org)でも公開しています。

小児在宅医療を担う人材育成についてはいかがでしょうか。

小児科医・在宅医療に関わる医師への研修だけでなく、看護師や相談支援専門員・医療ソーシャルワーカー、介護職員のスキルアップ研修を行っています。

小児の場合、特別支援学校、保健所、自立支援事業、児童福祉法、医療保意見制度など複数の法律・制度をまたいで核となってコーディネートを行う存在が必要不可欠です。そのため、相談支援専門員と医療知識に強みを持つ保健師がタッグを組んだサポート作りに奮闘しています。

小児在宅医療患者の相談支援計画の展開における課題と対策について教えてください。

まず一つ目の課題として、相談支援専門員は福祉制度には精通している反面、人工呼吸療法などの高度医療は専門外である点が挙げられます。対策として、NICUやPICUの現場の見学を含めた医療講習会による知識修得や保健師さんや訪問看護師とペアでコーディネーター業務を遂行する仕組みづくりを進めています。

次に手間暇かけて小児在宅医療のケアプランを作成しても、小児在宅医療では介護保険のように定期的なケアプラン更新が保証されていないという2つめの課題があります。その結果、相談支援専門員の収入が限られてしまい、小児在宅医療専門の相談支援専門員の育成が阻まれている現実があります。この課題の対策として、保険制度の改定で小児在宅医療でも定期的なケアプラン更新を義務づけるといった国の対策が求められています。

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他県でも小児在宅医療が充実してくるために必要なことについて

他県でも埼玉のような取り組みが広がるためには、どのようなことが必要でしょうか。

まずは実態を知ることが第一です。小児在宅ケアを受けている患者がどのエリアにどれだけいて、どんなサポートが必要とされているのか、そこから全てが始まると思います。

田村先生は多くの組織から協力を得て勉強会やアンケート実施など結果を出していらっしゃいますが、医師会や行政といった第三者から協力を得られやすくするために必要な要素、気をつけている点について教えてください。

普段から顔の見える関係づくりを心がけています。また、調査依頼や各種委員会の委員や役員の就任依頼を絶対に断らないように努めてきました。